土と太陽の記録 によせて

私は2011年に群馬県中之条町に移住し生活基板を作るために地元農家に働き口を見つけました。
そこで驚いたのは農業に携わるほとんどの方が高齢者でその中には80歳を越えてなお現役で働く人々の姿です。畑仕事は本当にキツい。働き盛りの私ですら何度も音を上げたくなるのにその人たちは黙々と仕事をこなしている。もちろん慣れもあるのでしょうけれど、人から人へと受け継がれた土地との関係が礎となって彼らをそうさせているのではないかと想像しました。
そして時折見せる笑顔のまぶしさは風景に溶け込んで、まるで土地の歴史と一体になっているかの様に新参者の私の目には映りました。ひょっとしたらこの人たちの顔に刻まれている無数の皺やシミはこの土地の記録そのものなのではないだろうか、その人の顔を描くことは同時にその土地を描くことになるのではないか。そのひらめきが作品と繋がってこのような大画面での鉛筆肖像画に繋がったのです。
大きく描くことで、その歴史の永さや深さを表現しきれるのではないかとの思いと、何かひと一人の顔を超えたもっと大きな存在、山や川あるいは剥き出しの岩、そう言った自然の一部として捉えられたらとの願いもあります。幸運にもこの地でお近づきになれた80歳以上の農家の方々を描かせていただくことになしました。
この作品を通して、私がこの土地で関わらせてもらえた長老達の笑顔の向こうにいにしえの時が広がっていることを受け取ってもらえたら嬉しく思います。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2017年 夏