3331アンデパンダン・スカラシップ展 / 展示風景 / 2011
波紋ノート : 夏草、冬草 / ノート、押花 /2011
波紋ノート : 夏草、冬草 / ノート、押花 /2011
波紋ノート:冬草 / ノート、押花(冬の草花) / 2011
陽暦、陰暦 / ノート、押花 / 2010
陽暦、陰暦 / ノート、押花 / 2010
マーブルライツ / 折紙、ミラボード、ガラス / 2011
Field records / B5ノート、押葉 / 2011
Field records / B5ノート、押葉 / 2011
冬のエントロピー / B5トレーシングペーパー、写真、ガラス / 2010 季節の遺伝子 / B5トレーシングペーパー、写真、ガラス / 2010
草稿 : 波紋、落下 / 原稿用紙、ゴーヤの種 / 2010
草稿 : 波紋、落下 / 原稿用紙、ゴーヤの種 / 2010
「波紋ノート」について
このシリーズを始めるきっかけは、化石を使った作品を手がけるようになってからだと思います。化石を探して地層を剥がして行く作業が、まるで時間のページをひも解いて行くかのようで地層そのものが途方もない時間を封じ込めた書物なのではないかと想像しました。地層は幾重もの時代の層に区分されていますが、厳密な時間の単位は示しません。見ようによっては一瞬一瞬が封じ込められているとも言えるでしょう。
地層をこれ以上に細かく分けられない最小単位に行き着いたら、それは時間の最小単位、つまり時間の原子の化石だと見る事ができないでしょうか。化石とは封じ込められた時間の単位だとすると、言い換えれば時間を封じ込めたものが化石なのかも知れません。
それでは、押花とはなんでしょうか。もしかしたら、花に時間を封じ込めた新鮮な化石ではないか、と言う考えから「波紋ノート」が出発しました。この時から身近に咲く花を集めては押花にする作業が日課のようになったのです。それにしても花とは不思議な存在です。季節の到来を花を咲かせる事で報せますが、一斉に咲き誇る花を見ると、それはまるで花自身が季節を産み出しているかのように見えます。花は私たちや多くの生き物にとって、自然の営みを育むための、かけがえのない道しるべなのでしょう。
押花を作るようになってからは、町を歩くときも、つい花を探して目を地面に這わせてしまいます。そうして気付いた事は、都会では多くの花を見つけ出せるという発見です。もちろん人工的な植え込みや、家庭の園芸など町を華やかに彩る花もたくさんありますが、それとは全く異にした、自発的に咲く花がコンクリートの割れ目や溝に溜まった僅かな土から顔を出しているのに出会います。それはあたかも、都会では見えにくくなった自然のサイクルを静かに示すかのようで、こことは違う大きな時間の流れの中に属している事を思い起こさせます。花を見つめていると何か時間の秘密を明かしてくれそうな、そんな錯覚を覚えてなりません。
押花と枯れた花は異なります。枯れた花には時間の進行がありますが、押花は時の流れから切り離された姿なのです。時を象徴するものとしてもう一つ、ノートがあります。私は真新しいノートを手にすると、なにか新しい未来が始るような思いにとらえられます。ページに記す度に歴史は構築されながら無垢の未来に進行して行きます。そのたくさんの可能性を秘めたノートの底に眠る押花の時間を掘り起こす作業がこの「波紋ノート」です。花の輪郭にそってページを一枚一枚切り広げることで、水面に浮かぶ波紋のように、封印されていた時間が解き放たれる軌跡を示します。
2011/3