小川 隆之 OGAWA, takayuki

    

 

  鏡の向こう側の私
  ー自写像ー

  1995年7月、太陽が異常にまぶしく、むし暑い夏が始まろうとしてるある日、ちょっとした体調の不調か
  ら、医者を訪ねた。直ちに入院して、検査を受けるよう指示された。病院での検査に次ぐ検査に、私は、も
  はや人間ではなく、一個の物体と化したかのような気分だった。

  入院してから半月程たったとき、医師に、食道に「腫瘍」があることを告げられた。「腫瘍」、つまり、
  「癌」である。

  一瞬、真っ白になった頭の中を、死にかけた一羽の鳥が必死に飛び立とうとしている映像がよぎった。そ
  れは、コントラストのないモノクロームのクローズアップ、そして、サイレントであった。

  9時間に及ぶオペ。手術室で目を覚ましたとき、文字通り、「生還」という言葉がぴったりの心境であった。

  その後の病室でのリハビリの毎日。医師から借りたレントゲン写真を、なにげなく病室に窓に貼り、それが
  東京のビルのスカイラインに浮かぶ様を一つの風景としてぼんやり眺めていたとき、突然、「そうだ、これ
  も、私の肖像写真なんだ」という想いが、私を襲った。

  健康なときには、自分自身の肖像を撮影しようなどと思ったこともなかったのに、今これを通過しなければ
  つまり、今自分の写真を撮らなければ、次の写真を撮れないと思った。そんな想いでできたのが、この
  写真である。

  鏡の向こう側にいる自分、それは、ジョージ・シーガルの人形が額縁の向こう側からこっちをじっと見てい
  るような、そんなイリュージョンの世界のようでもある。

  今生きていることを、神に感謝して。

  English

 

  Takayuki Ogawa
  1936 Tokyo, Japan

  Education & Experience:
  1959 B.A, Nihon University, College of Art, Department of Photography, Tokyo
  1966-1968 Live in New York City doing freelance photography
  1969-present 
Continues to do photographic art, reportage, commercial photo and film

  Solo Exhibitions:
  1968 New York Is Nikon Salon, Tokyo
  1969 New York Is George Eastman House, Rochester, N Y
  1987 Orson Welles Seed Hall, Tokyo
  1998  Love's Body Tokyo Metropolotan Museum
      Beyond the Mirror: A Self-Portrait Houston center for Photography
  1999 Tamashii no mesa [Mesa of the soul] Photo Gallery International, Tokyo
  2000 Chinmoku no syozo [Portrait of silence] Galerie SOL, Tokyo

 

  TAKAYUKI OGAWA is a freelance photographer and commercial film maker whose professional work has
  been published throughout the world. The work for this exhibition is his personal document of
  diagnosis, treatment and recovery from cancer. This work has been syown in Japan and the United Staes.